労災保険とは? 給付の種類や加入方法・申請手続きまでわかりやすく解説!

生活

もし通勤中や仕事中にケガをしたら、治療費を自己負担しなければならないと不安を感じる人は多いと思います。

ケガに対する備えといえば、健康保険や傷害保険が真っ先に考えられるでしょう。

しかしながら、通勤中や仕事中のケガは治療費等を自己負担することなく、『労災保険』から給付されることをご存じでしょうか。

また、労災保険の給付の種類は多岐に渡るため、知っておかないと給付を逃してしまうこともあるかもしれません。

今回は労災保険の給付の種類や加入方法・申請手続きについてわかりやすく解説します。

この記事を読めば、自分が通勤中や仕事中にケガをした時に労災保険からどのような給付を受けることができるのかはっきりとわかることでしょう。

そして労災保険を理解することによって、より安心して仕事に打ち込めるようになるでしょう。

労災保険とは

労災保険は公的保険

労災保険とは労働者が安心して働けるようにするための公的保険制度です。

労働者が通勤中や仕事中に起因するケガや疾病、障害が発生した時や死亡してしまった時に保険給付を受けることができます。

ここで重要なのは、労災保険とは民間の保険制度ではなく、国が給付を行う公的保険制度であるということです。

正式名称を労働者災害補償保険といい、労働者と遺族を守るための制度として厚生労働省が管理運営をしていて、略して労災と呼ばれることもあります。(以下労災保険とします)

ここでいう労働者とは、すべての労働者を指します。つまり正社員だけでなく、パート・アルバイトなど雇用形態に関わらず全ての労働者が対象となります。

ケガや病気の公的保険制度というと真っ先に健康保険を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、労災保険は通勤中や業務中に限ったケガや病気、または死亡された場合だけを給付対象としています。

病院等の治療費に関して、健康保険は1割~3割が自己負担ですが、労災保険は治療費の自己負担はありません。通勤中や業務中に起因したという条件を満たせば治療費の全額を給付してもらえます。

また、休業した時の補償も健康保険より労災保険の方がより大きな給付を受けることができます。

労働者にとって非常にありがたい公的保険制度となっています。

労災保険料を払うのは事業者

もしかしたら、自分は労災保険料を支払ってないから業務中のケガや病気の治療費は自己負担しなければならないと思っている方がいるかもしれません。

ご安心ください。そもそも労災保険は、労働者が保険料を支払う必要はありません。労災保険料を支払っていなくても労災保険の給付を受けることができるのです。

では、いったい誰が労災保険料を負担していることになるのでしょうか。

実は、労災保険料を負担しているのは『事業者』です。労災保険はルール上、加入者は事業主となります。したがって保険料は事業主の全額負担ですので、労働者は一切の保険料を負担する必要がありません。労働者を一人でも雇用する会社は、労災保険への加入が義務付けられています。事業主は保険料を年度毎に算出してとりまとめ、管轄の労働基準監督署に納付する義務があります。

では、労働者はいつから労災保険で守られることになるのでしょうか。

実は、事業開始の日またはその事業が適用事業に該当するに至った日に自動的に保険関係は成立します。

労災保険は労働者個人についての加入手続きは必要ありません。つまり労働者は特段の手続きをすることなく、自動的に労災保険の給付対象者ということになっているのです。事業主は保険関係が成立した日から10日以内に、「保険関係成立届」を管轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。

また、労災保険の保険料率は業種によって異なるという特徴があります。保険料率とは、保険金額に対する保険料の割合のことです。一般的に、勤務中や通勤中に事故に遭う可能性が高い建設業や運送業は保険料率が高く、可能性の低い業種は保険料率が低く設定されています。この保険料率は3年毎に見直しが行われます。

ここまでの説明を読んで、労災保険は労働者にとってのメリットしかないように感じた方もいらっしゃるかもしれません。前述の通り労災保険とは、労働者が仕事中や通勤が原因でケガや病気、または死亡した場合に保険給付を行う公的保険制度です。したがって、労災保険の被保険者は労働者ですので、労働者のための公的保険制度ということができます。

しかしながら、実は労災保険は事業主のための保険でもあるのです。

本来、労働者が業務上のケガや病気になった場合、事業主は労働者に対して補償を行う法的義務があります。この補償は、事業主の無過失責任であり、たとえ被災労働者が退職したとしても補償を打ち切ることができませんので、事業主の費用負担は果てしない金額となるかもしれません。その補償を事業主に代わって支払ってもらえるのが労災保険なのです。

以上の理由から、労災保険は労働者のための保険であると同時に事業主を守るための保険であると言えるのです。

※参照:厚生労働省「ビルメンテナンス業におけるリスクアセスメントマニュアル 第一章 総論 5.労働災害の発生と企業責任について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/081001-1b_0006.pdf

労災保険が給付される2つのシチュエーション

労災保険が給付される場合は大きく分けて2つあります。

それは仕事中の「業務災害」と通勤中の「通勤災害」です。災害というと大事故にしか適応されないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、実際は大事故以外のケガや病気でも労災保険は給付されることになります。

それでは、具体的な事故例を見ていきましょう。

仕事中の「業務災害」

業務災害とは、労働者の業務上でのケガや病気、障害又は死亡などを指します。

業務上での災害は以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 業務起因性:仕事がケガ・病気の原因になったかどうか
  2. 業務遂行性:仕事中に発生したケガ・病気であるかどうか

例えば、業務災害と認められるケースとして以下のようなものがあります。

  • 建設現場で作業中、脚立から足を踏み外して転倒し骨折した
  • 倉庫で荷下ろし作業の後、休憩後に歩行不能となり、熱中症による多臓器不全で死亡した
  • タンク内壁を清掃中に、残留していたジクロロメタン中毒により死亡した
  • 上司から連日のように叱責や暴言、書類を投げつける等のパワハラ被害にあい「うつ病」と診断された

※参照:厚生労働省「職場の安全サイト 労働災害事例 労働災害事例更新状況」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx

通勤途中の「通勤災害」

通勤災害とは、労働者が通勤により被ったケガや病気、障害又は死亡のことを指します。

ここでいう通勤とは、自宅と職場間の往復や現場間の移動です。関係の無い場所への寄り道は対象外となります。

しかしながら、日用品を購入するための寄り道や、やむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱の場合は、対象となります。

例えば、通勤災害と認められるケースとして以下のようなものがあります。

  • 電車で通勤中に転倒して骨折した
  • 会社から帰宅途中に津波警報が出たので、自宅へ向かわずに避難場所へ移動する際に転倒してケガをした
  • 地震でケガをして入院している妻の看護のために寝泊まりしている病院から出勤する途中にケガをした

※参照:厚生労働省「東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A 2通勤災害関係」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016ahx.html

労災保険の給付の種類

これまで、どのようなものが労災保険の対象になるかみてきました。

では、労災と認定された場合、はたしていくらもらえるのでしょうか。実は、受ける給付の種類によって異なってくるということが答えになります。そして、受けることができる給付についてはどれほど被害を受けたかという観点で分類されることになっています。

それでは、労災保険の給付の種類をそれぞれ見ていきましょう。

療養補償給付

病気やケガが治癒するまでにかかる医療費を全額補償してもらえるのがこの療養補償給付になります。受けることができる補償内容は一緒なのですが、形式面で2つに分けることが出来ます。

労災病院や労災保険指定医療機関であれば、治療を無料で受けることができます(療養の給付)が、それ以外の医療機関の場合はいったん治療費を自己負担することとなり、あとで請求することによって全額支給されます(療養の費用の支給)。

一旦治療費を自己負担しなければいけないため、場合によっては多くの額を建て替えることになり、一時的とはいえかなりの負担になってしまうこともあるかもしれません。そのため、労災病院や労災保険指定医療機関を受診するのが良いかもしれませんね。

また、通院するための交通費についても一定の要件を満たせば支給されます。

障害補償給付

身体に一定以上の障害が残った場合、障害の程度に応じて年金または一時金が支給されます。

障害等級1級~7級までは年金、8級~14級までは一時金が支給されます。

傷病が治癒(症状固定)した後においても、後遺症状が変化するかもしれません。

また、後遺障害に付随する疾病を発症させることも十分考えられます。

そのような場合、アフターケア通院費として1ケ月に1度程度の診察や保健指導、通院費を一定の範囲内で受けることができます。

休業補償給付

療養のために仕事を休んだ場合、休業(補償)給付を受けることができます。

休業1日~3日は給付を受けることができません。休業は4日目から支給されます。

1日につき、給付基礎日額の8割までが支給されます。

ここでいう給付基礎日額は事故直前3ヶ月分の賃金を暦日数で割った平均賃金をいいます。

なお、休業の初日から3日目までは事業主が休業補償(1日につき平均賃金の6割)を行うことになります。

もし会社の倒産や事業主の行方不明で3日間の休業補償を受けることができない場合は、労働基準監督署へ申請することで3日分の休業補償特別援護金の給付を受けることができます。

遺族補償給付

死亡した場合、遺族(補償)年金または遺族(補償)一時金が支給されます。

遺族(補償)年金を受け取ることができる方(受給資格者)は、死亡した方の収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹です。

遺族の数などに応じて支給額が決定されます。さらに上乗せで遺族の数に関係なく一律300万円の遺族特別支給金が支給されます。

遺族(補償)年金を受け取る遺族がいない場合、遺族(補償)一時金が支給されます。

葬祭料

死亡した方の葬祭を行った場合、遺族や会社など費用を負担した方に対して支給されます。

支給金額は以下のように計算します。

  1. 315,000円+給付日額の30日分
  2. ①の額が給付日額の60日分に満たない場合は給付日額の60日分

傷病補償年金

傷病が1年6ケ月経過しても治っていない場合や、障害の程度が重い場合に支給されます。

例えば傷害等級第1級に認定された場合は以下のように計算します。

傷病(補償)年金(給付基礎日額の313日)+傷病特別支給金(114万円)+傷病特別年金(算定基礎日額の313日分)

介護補償給付

障害(補償)年金または、傷病(補償)年金受給者のうち第1級または第2級の者(精神神経の障害及び胸腹部臓器の障害の者)で、現に介護を受けているときに支給されます。

支給額は常時介護と随時介護で異なり、それぞれ以下のとおりです。

常時介護 月額70,790円~165,150円
随時介護 月額35,400円~82,580円

二次健康診断等給付

定期健康診断等の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の項目について異常の所見があるとき支給されます。

一年度内に1回、二次健康診断と特定保健指導を自己負担なしで受けることができます。

ただし、一次健康診断を受けた日から3ヶ月以内に、健康給付病院等を経由して都道府県労働局長に請求書を提出しなければ給付を受けることができませんので注意が必要です。

※参照:厚生労働省 「労災保険給付の手続等 『請求(申請)のできる保険給付等~全ての被災労働者・ご遺族が必要な保険給付等を確実に受けられるために~』」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/091124-1.pdf

労災保険の申請手続きの3ステップ

ここまで、労災保険の種類について一つ一つ見てきました。

「想像していたよりも多くの補償をしてくれるのだ」と感じた方が多いのではないでしょうか?

さて、ここからは実際に労災保険を申請する場合に行う必要なステップについて解説していきたいと思います。なるべく労災保険にはお世話にはなりたくないですが、万が一の場合に備えてしっかりと申請方法を確認しておきましょう。

補償の種類に応じた請求書を手に入れる

労災保険の申請は一般的に企業や事業主が代理で手続きします。

会社で手続きを代行してもらえない場合は、本人で申請手続きを行わなければなりません。

まずは、厚生労働省のホームページもしくは各都道府県の労働基準監督署から労災保険給付の種類に応じた請求書を入手します。

厚生労働省 「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihoken06/

請求書に記入する

氏名や住所の他に、事故の発生日時・場所・状況を詳しく記入します。

事故詳細について記載の通りであることを証明するために事業主の方に署名・捺印をもらう欄もありますので注意が必要です。

また、補償の種類によっては療養等をした医療機関等に傷病名や傷病の経過などを記載してもらう欄もあります。

請求書と添付書類を労働基準監督署に提出する

請求書の記載が終わったら、添付書類を揃えて管轄する労働基準監督署へ提出します。

その後、労働基準監督署が請求内容を調査して労災保険の支給可否を審査します。

その審査結果により労災保険が支給されるかどうかが決まりますので、通勤中や業務中の事故であることのエビデンス(証拠)を残しておくことが大切です。

労災保険の3つの特徴

労災保険はアルバイトやパートでも受けられる

上述の通り、労災保険は正社員に限ったものではなく、パートやアルバイトの方でも支給を受けられます。

そもそも労災保険は、労働基準法上の労働者を対象としています。

したがって、パート・アルバイト等の就業形態に関わらず事業主との間に雇用関係があり、賃金を得ていれば正社員と同様に労災保険の給付を受けることができます。

個人事業主でも労災保険の特別加入制度が使える

フリーランスや個人事業主の方は、雇用されているわけではないので労災保険の対象外となってしまいます。

また、代表取締役、業務執行権を持つ役員や監査役は労災保険の対象外となります。

さらに建設業の一人親方の様に、業務を請負う働き方をしている方も対象外です。

しかしながら、仕事ができなくなったら収入がゼロになってしまうようなフリーランスや個人事業主、一人親方といった方々こそ生活を守るための労災保険が必要ですよね。

このような方々のために、一定の条件のもとに労災保険に特別に加入することができる労災保険特別加入制度があります。これは、労働者以外の方のうち、業務の実態や災害の発生状況からみて労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人に、一定の要件の下に労災保険に特別に加入することを認めている制度です。

詳細につきましては、厚生労働省のこちらのHPをご覧になってみてください。

厚生労働省 労災保険への特別加入
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html

労災保険の給付申請には時効がある

労災保険の申請はあとからでも申請すれば給付を受けることができますが、2年と5年の時効がありますので注意が必要です。時効が2年なのか5年なのかについては給付の種類によって違います。整理してみましたので参考にしてみてください。

時効2年 療養補償給付のうち療養の費用の支給、休業補償給付、介護補償給付、葬祭料
時効5年 障害補償給付、遺族補償給付

労災保険は後からでも申請できると後回しにしていて時効を迎えてしまうと、場合によっては本来受け取ることが出来た多額のお金を受け取れなくなってしまうことがあります。もし労災に当たるような事故に遭った場合にはすぐに確認して申請しましょう。

労災保険に関するQ&A

労災保険に加入していない会社でケガをしてしまった場合、どうなりますか?

「労災保険に加入していない会社でケガをしたが給付を受けることができるだろうか?」という相談は意外と多いものです。

そして業務中のケガであるにも関わらず、治療費を自己負担している方もいるかもしれませんね。

ご安心ください。もし会社が労災保険に加入していなかったとしても、被災労働者は労災保険の給付を受けることができます。

従業員を1人でも雇っている事業所は、必ず労災保険に加入しなければなりません。

労災かくしは犯罪であり、罰則を適用して厳しく処罰を求められます。

万一会社が労災保険に加入していなかったとしても、ハローワークや労働基準監督署へ相談して、必要な書類を揃えて提出しましょう。

労災保険と雇用保険の違いは何ですか?

労災保険と雇用保険は、どちらも労働保険という公的保険制度ですが、以下のような違いがあります。

労災保険:労働者が通勤中や仕事中にケガや病気になった時に、被災労働者や遺族を守ることを目的とした保険です。代表的な給付に療養補償給付があります。

雇用保険:労働者が仕事を続けることができなくなった時に、生活及び雇用の安定を図るとともに、就職を促進することを目的とした保険です。代表的な給付に失業等給付があります。

私たちが生活を維持するための公的制度は意外にもしっかりと整備されていますね。

まとめ

仕事中や通勤中の万が一の時に給付が受けられる労災保険についてみてきましたがいかがでしょうか。

ケガや病気なく健康に仕事ができるのが一番ですが、万が一の時に労災保険から給付を受けることができれば生活を守ることができます。

また、労災保険を詳しく知ることによって、より安心して仕事に打ち込めるようになったのではないでしょうか。

とはいえ、労災保険の給付だけでは少し足りないとお感じになった方もいるかもしれませんね。

労災保険で足りない部分を民間の保険で補うというのは合理的な視点です。

また、仕事以外でケガや病気になってしまった場合については、労災保険ではなく健康保険で補っていくことになります。

労災保険や健康保険等の公的保険制度では足りない分を、民間の保険で補うとより大きな安心が得られます。

しかしながら、国の公的保険と民間の保険とのバランスを決めるのはなかなか難しいかもしれません。

そんな時は、「保険のプロ」であるFPにご相談ください。

執筆者

梶野 俊太郎(ファイナンシャルプランナー)

東京都足立区に住む、旅行とサウナが趣味の2児の父親。平成12年AIU保険会社入社。平成16年全ての基準を達成し法人代理店として独立開業。生命保険、損害保険代理店経営を経て、現職へ参画。1,600件以上の事故処理の経験を柱に、常にお客様に寄り添うコンサルティングサービスを提供し、提携先や法人個人の数多くのクライアントから絶大な信頼を獲得。誠実に一生懸命をモットーに保険を通してお客様の満足の創造を目指します。
■保持資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士
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