がん保険加入前に知っておきたい! 上皮内新生物って何?

がん保険

がん保険について調べ始めると、「上皮内新生物」という言葉に出会う方が多いのではないでしょうか。
または、何となく聞いたことはあるけれども、どういうものか分からないという方もいるかもしれません。
上皮内新生物への理解を深め、がんとは何が違うのか、またがん保険を準備する上でのポイントを解説します。

上皮内新生物って何?

まず始めに、日本人の死因第1位*1である「がん」という病気は、正式には「悪性新生物」といいます。

新生物とは「腫瘍」のことです。
私たちの体の正常な組織細胞は、必要以上に分裂を行わないように調整されていますが、そこから外れて自律的に増殖を始めるようになった組織が「新生物」なのです。

異常な組織の塊が過剰に細胞分裂をしたり、本来死滅すべき細胞が死滅しなかったりします。

新生物には、悪性と良性があり、それぞれ「悪性新生物」、「良性新生物」と呼ばれます。

ちなみに良性新生物には胃や大腸の「良性ポリープ」や「脂肪種」などが分類され、悪性新生物には言わずもがな「がん」が分類されます。

では、「上皮内新生物」とは何でしょうか。
簡単に言えば、初期段階のがん、ということになります。

がんと上皮内新生物は別の病気のように聞こえるかもしれませんが、実際は同じがん細胞なのです。
上皮内新生物は「上皮内がん」とも呼ばれます。

*1 参照:厚生労働省 令和3年(2021年)人口動態統計(確定数)の概況「性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/dl/10_h6.pdf

悪性新生物と上皮内新生物の違いは?

前述したように、上皮内新生物も悪性新生物と同様にがん細胞であることに変わりはありません。

では何が違うのでしょうか。
悪性新生物の特徴は、増殖を続けて周囲に病巣を広げ(浸潤)、血液やリンパ液を通じて体のあらゆる場所に飛び(転移)、そして他の正常な組織が摂取する栄養を奪って体を衰弱させます。

これらの特徴のために、ステージが進むと治療は困難となることが多く、また命にかかわる可能性も高くなるのです。

一方、上皮内新生物はがん細胞でありながら、これらの特徴を持っていません。
上皮内新生物は、がん細胞が上皮内(組織の表層部分)にとどまっている状態であり、臓器の深いところまで浸潤していない状態なのです。

がん細胞が上皮の底にある基底膜を越えると、血液やリンパ液を通って他の臓器などに転移する危険性がありますが、上皮内新生物の場合はその危険性がほぼありません。

そのため、治療を行えば完治できる可能性が高く、転移や再発の可能性もほとんどないと言われています。
中にはそのまま進行しない場合や、自然に消失してしまうケースもあります。

罹患した組織を切除してしまえば完治することがほとんどである理由から、外科手術を行うのが一般的です。

上皮内新生物だといわれる主な病名としては、子宮の頸部上皮内がんや高度異形成、大腸粘膜内がん、乳腺の非浸潤性乳管がん、膀胱や食道の上皮内がん、などが挙げられます。

上皮内新生物の罹患割合

それでは、がん全体の中で上皮内新生物の割合はどれくらいなのでしょうか。
全体的な割合と男女別に代表的な部位をお伝えします。

まずは男性の場合を見てみましょう。
全部位で見ると、がんに罹患した方のうち上皮内新生物の割合は8.1%(555,938人中45,012人)となっています。

中でも高い割合を占めるのは膀胱と大腸です。膀胱は45.2%(約2.9万人中1.3万人)、大腸は24.0%(約10万人中2.5万人)と上皮内新生物が比較的高い割合が占めています。

次に女性の場合はどうでしょうか。
全部位で見ると、上皮内新生物の割合は11.9%(432,036人中51,517人)となっていますが、特に注目すべきは子宮および子宮頸部です。

子宮は43.7%(約4.6万人中2万人)、子宮頸部だと65.2%(約3万人中2万人)と上皮内新生物が非常に高い割合を占めていることが分かります。

やはり早期の検診や、民間の生命保険の加入検討など、経済的な準備も重要かもしれません。

※「国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2015年罹患数・率報告(平成31年3月)」を参照に筆者調べによる
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/pdf/mcij2015_report.pdf

上皮内新生物の治療費

上皮内新生物は、外科手術によってがん細胞を切除することが一般的です。
なお、多くの場合は皮膚や内臓を大きく切開するような手術は必要なく、短期間での治療が可能です。また悪性のがんのように、手術後に抗がん剤治療を行うなどの追加的な治療が続くことも少ないようです。

では、実際の治療方法とその費用について見てみましょう。
(以下、罹患率などのデータは、国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2015年罹患数・率報告(平成31年3月)」より引用。)
女性の上皮内新生物の中で高い割合を占める「子宮頸部上皮内がん」や「高度異形成」の場合、一般的に【子宮頸部円錐切除術】という手術治療が行われます。

子宮頸部(子宮の出口)を円錐型に切除する手術治療です。
男性で罹患率が高い「大腸の粘膜内がん」の場合は、ポリープの大きさによって治療法が変わります。

大腸内視鏡検査でポリープが発見された場合、そのポリープが数ミリ程度で、且つがん化するリスクがあると判断された場合は、内視鏡の先端に取り付けた電気メスでそのまま切除します。

また、もしポリープの大きさが1.5センチ程度までなら、【内視鏡的粘膜切除術】が一般的です。
これはポリープの粘膜下に生理食塩水を注入し、リング状の金属ワイアーをかけてポリープを絞り込み、高周波電流で焼き切る手術です。

更に、ポリープの大きさが2~5cm程度なら、【内視鏡的粘膜下層剥離術】が行われます。
これは病変の周辺をマーキングし、粘膜下層に薬剤を注入したのちに専用ナイフで病変を切り取る手術治療です。
(上記はあくまで一例です。発生した部位や大きさ、深さ等により治療方法は異なります。)
これらの外科手術における費用は、どれも公的医療保険が適用されます。

そのため、3割自己負担額は、日帰り手術で済む場合なら2~3万円程度、1週間程度の入院が必要な内視鏡手術ならば15~17万円程度となるのがおおよその目安です。

また、ひと月の医療費が自己負担限度額を超えた場合は、「高額療養費制度」も利用可能です。

しかし、他の病気と同様、保険診療外でかかる費用については負担が大きくになる場合があるので準備が必要です。

例えば、入院中に「差額ベッド代」がかかる病室を利用することになった場合、その費用は全額自己負担となります。

また、休職することによって収入が減少する場合もあるでしょう。
思いがけず入院が長引いたり、復帰に時間がかかるケースを想定して準備しておく必要があるでしょう。

がん保険と上皮内新生物の関係

給付金額に現れる差

がん保険に加入する場合、気になるのは「上皮内新生物」でも給付金を受け取れるかどうかです。

現在では、がん保険の商品の中で上皮内新生物を保障しない商品は少ないようです。

ただし、上皮内新生物と悪性新生物で保障内容が異なる場合もあります。
その理由は、前述したように上皮内新生物は適切な治療を行えば短期間で、また高い確率で完治できるからです。

がん保険における、上皮内新生物と悪性新生物の取り扱いの違いについて、以下にポイントを2点挙げておきます。

がん診断給付金

がんと診断された時に受け取れる「診断給付金」ですが、上皮内新生物の場合、悪性新生物の10~50%程度の給付金となっている商品が多くなっています。

しかし保険会社によっては上皮内新生物でも悪性新生物の場合と同額を保障する商品も登場しています。
また、昨今のがん保険ではこの診断給付金を1回だけでなく、複数回給付する商品も登場しています。

2回目が受け取れるのは、商品によって1年経過後や2年経過後などの条件がありますが、上皮内新生物の場合は1回限り、としている商品もありますので確認が必要です。

保険料の払込免除

がん保険の中には、がんと診断された場合にそれ以降の保険料の支払いが免除される商品があります。

ただし商品によっては、免除となるのは悪性新生物の場合だけで上皮内新生物は対象外としているものもあります。

このように、がん保険では上皮内新生物も保障していると言っても保障内容の細かい部分で違いがあることがあります。

保険料の差異だけでなく、自分がどのような時にどれだけ保障して欲しいのかを踏まえてチェックすることが重要です。

女性は特に気をつけたい保障範囲

上皮内新生物を発症しても、公的な健康保険制度があるので家計に大きな影響は出ない、と考える方もいるかもしれません。

また、病気やケガを幅広く保障する医療保険に加入しているならば、がん保険を検討する上では悪性新生物のことだけを考えて商品を選択するのも間違いではありません。

しかし、統計を見ると女性は上皮内新生物を発症する割合が高いというデータが出ています。

また女性が発症する上皮内新生物を部位別にみると、子宮頸部が約50.0%、乳房が約19.6%と高い割合を占めています。

ご自分が「がんの家系」であると危惧されている方などは、上皮内がんの段階でしっかり経済的サポートを受けられる保険商品に加入しておくことがよいでしょう。

また親戚縁者にがんを聞かない場合でも、生活習慣や環境によって発症するリスクは存在します。定期的にがん検診を受け、早期発見に努めることが大切です。

参照:国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2015年罹患数・率報告(平成31年3月)」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/pdf/mcij2015_report.pdf

がん保険の保障の種類

ここまで、悪性新生物と上皮内新生物の違いをお話ししてきましたが、がん保険も、商品によっては悪性新生物と上皮内新生物を区別している商品があります。

同じく保障するもの、区別しているもの、そもそも保障しないものがありますので、具体的に見てみましょう。
ただし以下に挙げるのはほんの一例です。

商品によっては特約(オプション)によって変更できるものなど多種多様ですので、あくまで参考としてください。

同等保障

加入しているがん保険に「入院給付金」、「通院給付金」がある場合、多くの商品は悪性新生物でも上皮内新生物でも同じく保障しています。

入院も通院も、日数分だけ給付される仕組みとなっている商品が一般的ですが、上皮内新生物でも悪性新生物と同様、入通院の日数分の給付金を受け取ることができます。

一部保障

特に大きな違いとなっているのが「診断給付金」と「手術給付金」です。
まず、がんと診断された時点で受け取ることができる「診断給付金」ですが、商品によっては『金額』と『支払回数』に差があることがあります。

例えば、悪性新生物であれば100万円で回数も無制限だけれども、上皮内新生物の場合は50万円で支払いは初回の1回のみ、というような場合があります。

また、手術に関しても、がんの手術は1回20万円、でも上皮内新生物の場合は5万円というような設定となっていることがあります。

保障対象外

がん保険のなかには、そもそも上皮内新生物を保障の対象外としている商品もあります。

しかし、そのような商品は少数派です。また特約(オプション)で選択できるものもあります。
いずれにしても保険料の違いだけでなく、保障範囲の違いをしっかり把握するようにしましょう。

上皮内新生物は悪性新生物と同等に保障されなければならない?

がん保険のなかには、一部分にせよ上皮内新生物を区別する商品があることをお話ししましたが、これから加入を検討するなら、同じように保障する商品を選ぶべきでしょうか。

ここまで解説してきた通り、上皮内新生物の場合、必ずしも高額な治療費がかかるわけではありません。

また手術などで完全に取り除くことができれば、再発や転移のリスクも高くはありませんので、がんと同等の保障はなくてもよいと言えるでしょう。

ただし、上皮内新生物を区別して保障額を下げている商品が、同等に保障する商品と比べて割安かというと、必ずしもそうではありません。

保障内容と保険料は必ずしも比例しませんので、きちんと見比べる必要があるでしょう。

まとめ

今回は、がんの中でもよく目にするようになった「上皮内新生物」にスポットを当て、一般的な治療方法と費用、そしてがん保険における考え方について解説してきました。

上皮内新生物を発症したとしても、早期に適切な治療を受ければ完治する可能性は高いでしょう。

しかし、放置すれば悪性のがんに進行し、完治が難しくなる事態になることもあります。
がんは早期発見・早期治療が最良の方法であることは基本です。国を上げてがん検診の受診が呼びかけられている昨今、思いがけず病名を告げられる方もいるかもしれません。

病気について正しい知識を蓄え、経済的にも適切な準備をしておきたいものです。

執筆者

宮脇 英寿CFP®資格

中学高校の数学教師を経てファイナンシャルプランナーの道へ。「100歳まで元気に生きるためのライフプランニング」が独身者、家族世帯を問わず好評である。年間100世帯以上の個別相談に対応しながら、確定拠出年金や住宅ローン、ねんきん定期便の見かた等各種セミナー講師も担当。プライベートでは小・中・高校生の3人の子どもの子育て中である。
■保持資格:CFP®資格住宅ローンアドバイザー宅地建物取引士
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